大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台高等裁判所秋田支部 昭和37年(ネ)90号 判決 1965年2月17日

控訴人 菊江政治郎

被控訴人 中鉢養助

主文

一、原判決を取消す。

二、被控訴人は控訴人に対し金一三、五六〇円及之に対する昭和三三年一〇月三日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

三、被控訴人は湯沢市関口字寺沢六〇番の畑一畝七歩の部分(別紙図面<省略>(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)の各点を結んだ範囲)に立入つてはならない。

四、控訴人その余の請求を棄却する。

五、訴訟費用は第一、二審を通じ二分し控訴人及被控訴人に各その一を負担させる。

六、この判決は第二項の金員支払を命じた部分に限り控訴人に於て金四、〇〇〇円の担保を供するときは仮に執行することが出来る。

事実

控訴人は原判決を取消す、被控訴人は控訴人に対し金一二六、五〇〇円及之に対する訴状送達の翌日から完済まで年五分の割合による金員を支払え、被控訴人は控訴人所有の湯沢市関口字寺沢六〇番畑一畝七歩の地内に立入つてはならない。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とするとの判決を求め。被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述と証拠の提出、援用及び認否は

控訴人に於て

本件係争地内に植栽され被控訴人が抜去した花卉、園芸植物の明細、数量、価格は別紙目録<省略>記載の通りであると述べ、左記被控訴人主張事実中本件買収が自創法第三条第一項第一号により行われたこと、被控訴人主張通りの農地引渡の判決があつて被控訴人が強制執行をしたことは認めるがその余の事実は否認する右訴訟は本件と係りのないものであると述べ。

被控訴代理人に於て

一、本件買収は自作農創設特別措置法第三条第一項第一号により行われ被控訴人が昭和二五年一二月二日売渡を受けた対価金三一円二〇銭には地上生立の植物の対価も含まれている。控訴人主張の植物は主として七三、七四番のうちに植栽されていたがその種類、数量は争う。

二、控訴人は七三番の一部を六〇番の一部なりと主張するが右部分を含めた本件土地は昭和一七年以来被控訴人が控訴人先代菊江政治から賃借して占有耕作し来り自創法に基き売渡を受けたものである。

三、昭和二五年春頃から控訴人は七三番、七四番の土地を、控訴人の旨を受けた訴外長雄長吉は七二番、七五番の土地を夫々被控訴人の占有を奪つて耕作を始めたけれ共昭和二八年二月二日湯沢簡易裁判所は被控訴人の提訴に基き両名に対し右農地の引渡を命ずる判決をなしたので被控訴人は同年三月七日右判決の仮執行宣言に基き強制執行に及び執行吏から本件係争地(控訴人が六〇番と主張する七三番も)を生立する樹木等植物と共に引渡を受けた。従つて係争地の一部に控訴人主張の樹木や植物があつたとしても右は農作物ではないし、控訴人が権限なく被控訴人の占有を奪つて占拠し係争地に附着させたものであるから自らその権利を主張し得ない。

故に買収に際し地上樹木や植物の対価が算定されなかつたとしても被控訴人に対しその権利を主張し得ないので被控訴人の農耕に妨となる以上之を抜去しても被控訴人の行為は不法行為となる筈がないと述べ。

証拠として<省略>………と述べた。

外は原判決事実摘示の通りであるから之を引用する。

理由

一、昭和二五年一二月二日自作豊創設特別措置法第三条第一項第一号に基き控訴人所有の

秋田県雄勝郡三関村関口字寺沢七二番畑一〇歩

同 七三番畑一〇歩

同 七四番畑一一歩

同 七五番畑六歩

の四筆が買収処分を受け同日被控訴人に代金三一円二〇銭で売渡され被控訴人が右四筆の土地に付き昭和二七年八月二日所有権取得登記を経了したことは当事者間に争がない。

二、原審及当審証人菊江宏治の証言と原審及当審の控訴本人尋問の結果によると右各地番の地上に(前記四筆及控訴人が同六〇番の一部と主張し被控訴人が七三番の一部であると争う部分を含む。同所が買収の対象地であつたか否かは後に判断する。)別紙目録記載の種類、数量の園芸用花木が昭和二四年春頃から同年秋頃迄の間に順次植付られ栽培されていたことが認められ他に之に反する証拠は存在しない。

三、(買収地上の園芸用花木の帰属)

控訴人は本件買収の対象となつたのは前記四筆の土地のみで地上の園芸植物は包含されていないと主張するに対し被控訴人は仮に右地上に控訴人主張の植物があつたとしても植物は土地と一体をなし土地の処分に従うべきものであるから被控訴人は売渡により土地と共に地上の植物の所有権をも取得したものであると争うので以下判断する。

原審及当審証人菊江宏治、原審証人藤原子之肋、同藤沢賢吉、同舛谷与吉、同藤田為蔵等の証言を綜合すると本件園芸植物は別紙目録に記載する通り相当量に上り本件土地上に栽培、管理せられ随時堀上られて売買せられていたもので一種の農作物として明かに土地とは独立した所有権の客体として取扱われていたことが認められる。更に成立に争のない甲第一四号証の二によると本件土地四筆の買収価格は売渡価格と同額の金三一円二〇銭であることが認められるが原審証人菊江宏治(第三回)の証言により成立を認め得る甲第一七号証の一、二によると右地上の別紙目録記載園芸植物は所謂六〇番の地上に生立するもの、価格不明のものを除いて昭和二八年一〇月現在で尠くとも金三三、八〇〇円以上の価格を有し(同目録下欄記載参照)たことが認められるから買収当時の昭和二五年一二月現在では多少右価格を下廻るとしても当時の地価とは甚しい価格の差があつたことは明かであつて、右買収価格に地上園芸植物の価格が考慮せられているとは到底考えられない。この様に地上の園芸植物が地価と比較出来ない価格を有する場合は土地の買収対価と別個に考慮するのが相当であるから土地買収処分の効果は園芸植物に及んでいないと解するのが相当である。農地委員会も右事情を考慮して本件園芸植物を買収及売渡の対象から除外していたことが成立に争のない甲第三号証、甲第一一号証によつて明かに看取出来る。

右認定に反する原審証人渡辺寅雄の証言部分、原審及当審の被控訴本人尋問の結果は信用せず他に右認定に反する証拠は存在しないから土地と共に本件園芸植物の所有権をも取得したという被控訴人の主張は失当である。

四、被控訴人は仮に控訴人が主張通りの植物を本件土地上に植村けていたとしても控訴人は権限なく被控訴人の占有を奪い右植物を附着させたに過ぎないから控訴人自らその権利を主張し得ないと抗弁する。成立に争のない甲第一、九、一一号証、同乙第二号証の一、二、乙第三、四、五号証、原審及当審の控訴人(後記措信しない部分を除く)及被控訴人の各本人尋問の結果に弁論の全趣旨を綜合すると次の事実が認められる。

被控訴人は戦時中の昭和一七年頃控訴人先代から手不足で空いていると言われ本件農地で蔬菜を作り当初は収獲の一部を以て賃料に充て爾来引続いて幾許かの賃料又は賃料相当野菜を納めて耕作に当つて来た。然るところ控訴人は本件土地が車馬の出入に便なることから自作を欲し(当時漸時施行されて来た買収処分免脱の意図もあつたと推認される)被控訴人に対し昭和二四年度から自作するに付耕作をせぬ様申入れて同年春から順次園芸植物の植込を開始し同年秋頃迄に本件植物の植付を完了させて仕舞つた。

被控訴人は控訴人のこの行為を不当とし昭和二五年三月二七日所轄農地委員会に耕作権確立の申請をした外耕作権の存在を主張して買収、売渡方を申請したので同年八月一六日本件土地に対し買収計画が樹立され同年一二月二日付を以て買収処分と同時に被控訴人に対し売渡処分が行われた。

控訴人はこの行政処分を争つて取消の行政訴訟を提起し一方被控訴人も控訴人に対し本件農地の引渡を訴求し爾来夫々争訟を重ねて来たのであるが何れも第一、二審共控訴人の敗訴となつて前者は昭和二八年中後者は昭和二九年中に確定するに至つた。

右認定に反する原審及当審の控訴本人尋問の結果部分は信用せず他に右認定に反する証拠は存在しない。

右認定事実によれば控訴人は当時適法に耕作権を有した被控訴人が返還を承諾しないのに一方的に賃貸借契約を解約し本件園芸植物の植込を行つたもので控訴人の主張する如く車馬乗入の便宜上自作を欲したとしても(自創法の買収を免れんとしたものであれば勿論々外である。)賃料滞納その他被控訴人に批難せらるべき事由なき限り右控訴人の解約事由は正当な理由とならないから控訴人の行つた一方的な解約の申入は何等効果を生じなかつたと謂うべく所轄農地委員会も控訴人の解約を無効と認めて被控訴人のために買収手続を進めたと認めるのが相当である。従つて控訴人のなした園芸植物の植込は被控訴人の賃借権に対する侵害であり被控訴人が売渡を受けて本件土地の所有権を取得した後も引続いて栽培を続けて収去しなかつたのはその不法侵害状態が継続していたというべきである。

被控訴人の本抗弁は要するに控訴人の本件土地に対する園芸植物の植込は不法行為であるから自己の権利防衛のため己むなく抜去した被控訴人は損害賠償の責を負わない従つて控訴人は損害賠償の請求をなし得ないという趣旨と解される。

控訴人が被控訴人との賃貸借契約を一方的に解約し植込を行つたことの失当であることは前認定の通りである。然かし当時本件土地に対しては未だ買収計画もなく控訴人が所有権を有していたことは前記の通りであつて本件農地の買収及売渡処分に当つて本件園芸植物がその対象から除外せられていたことも前認定の通りである。

本件の様に地盤が買収され地上の園芸植物がその対象から除外せられた場合控訴人は速に之を収去して他に移植する等の処置をとるのが当然であつて之を放置して売渡を受けた者の使用を妨害した場合は之によつて蒙つた損害を賠償する責を免れないというべく一方地盤の売渡を受けた被控訴人は之を使用するに妨となる本件園芸植物の排除を控訴人に求め之に応じない場合如何なる手段により救済を求むべきであろうか。

自創法第三三条、(農地第五五条)には地上に買収の対象外の工作物、立木等の存在する場合之が収去を所有者に対し命令することが出来る旨を規定しているが右は自創法第三〇条(農地法第四四条)の未懇地等買収の場合の規定であつて同法第三条の買収の場合にはその規定を欠いているから同法により収去命令を求めることは困難であり、園芸用花木が被控訴人の営農上必要とは認められないから同法第一五条の付帯買収を求めることも出来ない。被控訴人としては所有権に基いてその収去と、之によつて蒙つた賠償を求むべきであり濫に自力救済の手段に訴え暴に報ゆるに暴を以てする如きは法秩序を紊すもので法の許容しないところである。

然し乍ら被控訴人が抜去したのは昭和三一年六月頃であることは控訴人の自認するところ(被控訴人も抜去した事実は明かに争わない)であるから本件土地が被控訴人に売渡された五年半後のことでありその間行政訴訟、土地引渡訴訟、同仮処分等が係争していたとは言え行政訴訟で控訴人の敗訴が確定した時点よりしても三年、仮処分の本案たる土地引渡事件の敗訴確定後からでも二年近くの後の事実であり、仮処分中も控訴人はその耕作を認められていたこと成立に争のない乙第五号証によつて認められるからその間控訴人は何時でも収去して移植することが可能であり更に成立に争のない乙第六号証と弁論の全趣旨によれば土地引渡の一審判決の仮執行宣言により強制執行を受けた後も放置して収去しなかつたことが明白であるから控訴人は本件植物の所有権を放棄したに非んば故意に被控訴人の使用を妨害する為放置していたと認める外ないのであつて多年に亘り使用を妨げられた被控訴人が法によつて収去を訴求しても応訴により再び時日を遷延し売渡を受けた目的を遂げ得ないと判断して抜去したと認められるから右事情のもとその心情は正に掬すべきものがあるけれ共正当防衛の要件を完備していたとは認め難いから過剰の自力救済行為として損害賠償の責任は免れずたゞその額については斟酌すべきものである。

五、控訴人は別紙目録中(五)記載の植物は寺沢六〇番に植えられ同地は本件買収の対象外の土地であると主張し被控訴人は寺沢七三番の一部であると争うので判断する。

成立に争のない乙第七号証の一、二によると寺沢六〇番は地積一反七畝一〇歩の田地で明治二五年一一月一四日訴外近藤恒吉の所有となり昭和七年二月二二日訴外近藤直吉に売渡され更に昭和三九年六月八日訴外菅寿郎に売渡されて現に同人の所有地として公簿上登載されていることが認められ控訴人が本係争地部分について所有権の登記をしていないことは当事者間に争がないところである。

しかし原審証人近藤直吉、原審(一、二回)及当審証人菊江宏治の証言と成立に争のない甲第一八号証、原審検証の結果を綜合すると別紙図面の(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)の各点を結んだ線で囲繞される部分は寺沢六〇番の一部であるが控訴人先代政治の時代から控訴人方の所有地として平穏公然に所有の意思で占有を継続し来り当時の公簿上の所有者であつた訴外近藤恒吉、近藤直吉等も之を怪しまず控訴人方の所有地として扱われて来た。寺沢七三番の公簿上の地積は一〇歩であり七二、七三、七四、七五番の総面積の合計を以てしても一畝七歩に過ぎないのに別紙図面(イ)、(ホ)、(ヘ)、(ト)、(チ)、(リ)、(ロ)、(イ)の各点を結んだ線で囲繞された範囲(切絵図七二乃至七五番に相当する)の地積が優に右面積を超えていることが原審検証の結果認められるので本件買収に当つては右範囲の土地を七二乃至七五番の畑として買収し之を被控訴人に売渡したこと明かであつて(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)の各点を結ぶ範囲の土地は六〇番の土地として買収の対象とならず従つて被控訴人に売渡されていないと認めるのが相当である。

尤も弁論の全趣旨を綜合すると被控訴人が控訴人先代から借受けて耕作していた範囲は本件六〇番の一部に及んでいて被控訴人も右部分を含めて売渡を受ける意図であつたと認められないこともない。然かし自創法に基く買収は国が売渡に先行して買収すべき範囲を調査、特定するのであつて本件買収は七二番畑一〇歩七三番畑一〇歩、七四番畑一一歩七五番畑六歩を買収の対象としたのであつて公簿上訴外近藤直吉名義に存した六〇番の一部を対象としていないこと多言を俟ない。然かも現実売渡を受けた範囲も明かに公簿面積を上廻る以上被控訴人は六〇番の一部に当る別紙目録(五)の植物が栽培された地域の売渡を受けなかつたこと明白であるといわなければならない。

右認定に反する原審及当審の被控訴本人の尋問結果は信用出来ないし乙第一号証、乙第二号証の一、二、乙第三、四、五号証はいづれも本件六〇番畑に対する判断を含まないから乙第三号証の執行調書たる乙第六号証と共に右認定の妨とならず他に認定を左右するに足る証拠は存在しない。

六、被控訴人は昭和二八年三月七日控訴人に対し本件七二乃至七五番の土地の引渡を命ずる湯沢簡易裁判所の仮執行宣言を附した判決(乙第三号証)に基き強制執行をなし執行吏から本件係争地(控訴人が六〇番と主張する七三番を含め)をその地上に生立する樹木と共に引渡を受けたので之を抜去しても不法行為とならないと抗弁する。

成立に争のない乙第六号証によると執行吏赤川節は「債権者は七三番と七四番畑地に約二尺位に生長した松、柳、ヱニシダ等約百本位生立する旨陳述した」「仍て右四筆に対する債務者の占有をといて之を債権者に引渡し右松、柳、ヱニシダ等の生立木等は土地の一部として土地と共に引渡した」(債権者の陳述を記載するのみで確認した形跡がないのは凡らく執行が三月七日であつて積雪により立木の所在を認められなかつた故と考えられる)と記載されている。

しかし六〇番の土地が七三番の一部でないことは前認定の通りであり執行された判決(乙第三号証)が引渡を命じたのは自創法により被控訴人が売渡を受けた七二乃至七五番の土地であつて本件園芸植物は買収及売渡の対象となつていなかつたこと前認定の通りであるから執行吏が被控訴人の指示を軽信し六〇番の一部を七三番の一部と解し、売渡対象外で被控訴人の所有でない園芸植物を土地の一部と解釈して引渡したとしても執行吏は判決以上の権利を創設したり、執行吏の判断で判決の趣旨を拡張して執行する如きは法の許容せざるところであるから之が為六〇番が七三番となり右地上の植物に対する控訴人の所有権が消滅する謂れもないから被控訴人の右主張は失当である。

七、被控訴人が本件園芸植物を昭和三一年六月頃抜去して枯死させ効用を喪わせた事実は被控訴人の明かに争わないところであるがその種類、数量を争い原審及当審に於ける被控訴本人尋問の結果によると控訴人との抗争久しきに及び双方立入管理に当らざりしため荒地と化し鼠虫害を受けて枯死したものもあつたと供述するがその枯死した種類、数量を挙示せぬので其の事実を認定し難く一方原審証人藤原子之肋、同藤沢賢吉、同舛谷与吉、同菊江宏治の各証言によれば被控訴人が抜去した園芸植物は相当量に上つていたことが認められ一旦根付いた樹木は容易に枯死せざること当裁判所に顕な事実であるから結局前記被控訴本人尋問の結果部分は信用し難く他に抜去当時前認定の植物中存在しなかつたと認められる証拠なき本件に在つては被控訴人が抜去した植物は別紙目録記載通りであつたと認めるのが相当である。

八、よつて被控訴人の抜去枯死させたことによつて控訴人の蒙つた損害について検討する。

(イ)  寺沢七二番乃至七五番上の植物の価格。

控訴人は本件全植物の価格は別紙目録通りであつて六〇番を含めて総計金一二六、五〇〇円であるといゝ前認定の本件七二番乃至七五番の範囲の畑上に生えていたものについては別紙目録の明細を以て金一一一、三〇〇円となること計数上明である。然かし控訴人の右主張価格を認めるに足る証拠は皆無であつて原審証人菊江宏治(第二回)の証言により成立を認め得る甲第一七号証の二によると右の価格は別紙目録最下欄に記載する通り昭和二八年一〇月現在に於て業者間の価格は金三三、八〇〇円以上であつたと認められる。(備考……右の価格算定については「番号五二、ゴールデンマーガレツト、二〇〇本」は甲第一七号証の二にその銘柄、価格の記載なく他に之の価格算定についての資料がないから除外し、「番号一二、紅葉種類物、三尺物五〇本(七三番二〇本、七四番三〇本)」は甲第一七号証の二には尺苗の単価が記載され本件樹木がこの価格以上あるべきは当然であるが之を認むるに足る資料が他に皆無であるから暫く尺苗の価格に従つた。)

(ロ)  寺沢六〇番上の植物の価格。

前同様控訴人は本件地上の植物の価格については金一五、二〇〇円と主張するのであるが之を認めるに足る証拠なく前記甲第一七号証の二によると同じく昭和二八年一〇月現在、業者間の価格は金三、五六〇円以上であつたと認められる。(備考……右の価格算定についても「番号五一、胡桃成果樹、三本」は甲第一七号証の二にその銘柄、価格の記載を欠き他にこの価格を認定するについて資料がないから除外し、「番号二二、クムソン八尺物」は甲第一七号証の二には六尺物の価格が記入され八尺物がこれ以上の価格を有すべきこと当然乍ら之を認定すべき資料がないので六尺物の価格に従つた。)

右の価格は前述の通り昭和二八年一〇月現在の園芸業者間の相場であることは原審及当審証人菊江宏治の証言により認められるところ園芸植物の価格も他物価同様常に騰勢をたどり来つたことは当裁判所に顕なところであるから反証なき本件に於て抜去当時も右価格以上の価値を有したと認められ控訴人は右同額の損害を蒙つたというべきところ前示の通り尠くとも(イ)の損害については控訴人に重大な過失があつて之を斟酌するのが適当であるから之を参酌して当裁判所は(イ)の損害については被控訴人は金一〇、〇〇〇円の賠償をなすが相当であると認める。従つて被控訴人は全額賠償すべき(ロ)の金三、五六〇円と併せ金一三、五六〇円の賠償義務を負担するものと認むべきである。

九、然らば右金一三、五六〇円と之に対する訴状送達の翌日であること記録上明白である昭和三三年一〇月三日以降完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求めると共に被控訴人が売渡を受けた事実なく控訴人が事実上その所有地として占有している湯沢市関口字寺沢六〇番中別紙図面(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)、の各点を結ぶ地域の畑一畝七歩内に被控訴人の立入排除を求める請求(仮に控訴人が未だ所有権を以て対抗し得ないとしても尠くとも占有権に基いて立入の排除を求め得るから本件訴には予備的に右請求も内包されていると認むべきである)部分は正当として認容し爾余は失当として棄却すべきものである。

よつて之と結論を異にした原判決を取消し訴訟費用の負担に付民事訴訟法第九六条第八九条第九二条、仮執行宣言に付同法第一九六条を各適用し主文の通り判決する。

(裁判官 小野沢龍雄 新海順次 篠原幾馬)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例